延伸開通
営団地下鉄半蔵門線の延伸開通を記念した発車式が行われた18日、押上駅のホームで開かれた出発式に2人の区長が出席した。山崎昇墨田区長と室橋昭江東区長の2人で『クス玉』割ったが、式後『本当なら、葛飾区長も一緒のはずだったんだが』と一瞬寂しそうに表情を曇らせたが、これが両区民全体の気持だ。
なぜなら、『帝都高速度交通公団』、それが正式名称の営団地下鉄は1941年、公益事業を行うための特殊法人として設立された。
与えられた役割は、首都での地下鉄建設と運営だった。とりわけ、巨額の資金が必要となる地下鉄の建設を、民間会社に担わせるのは難しいとの考えが当時の政府にあったという。
それから60年余りを経て民営化される背景には、役割の一つの鉄道網整備はほぼ達成されたという判断がある。『作る』のはもういい、あとは『運営に力を注ぎなさい』ということなんです。営団では、民営化の狙いをそう説明している。
この流れの中で、半蔵門線の『さらなる』延伸はどうなるのか?営団では整備主体としての役割は終わるのでと交渉の当事者ではなくなると強調されては。
一方、有楽町線に付いては、1988年の新木場駅(江東区)開業に先立ち、営団が近くの都有地を車庫用に購入した経緯がある。
地元工場の移転用地にすることで、既に都と江東区が合意していた土地だった。営団は、同区の南部と北部が結ばれれるように路線を延ばすことを約束して、区の同意を取りつけた。『江東区には足を向けて寝られないほどの恩を感じているが、約束を果たせず、本当にじくじたる思いがある』という。
いわくつきの有楽町線でさえそうなのだから半蔵門線についても納得して欲しい・・・・・・・・・・そんな思いが言葉の端々からにじみ出る。
今後の開通を明言している新線は、2007年度の完成を目指し、渋谷〜池袋間で建設中の13号線だけだ。ということが昨年の10月の臨時国会に提出され通過承認されたと解かっているから。
同線との相互直通運転を開始する東武鉄道でも、墨田区の東武伊勢崎線曳舟駅ホームで同社関係者だけの発車式を行った。ホームには、『一番電車』の出発を見ようと、大勢の鉄道ファンがカメラを持って集まった。
式に先立ち、試乗車の運転席に座った根津嘉澄社長は、『1996年12月の着工以来、6年の歳月が過ぎた。沿線地域の経済が、これをきっかけに活性化してほしいという期待がある』と感慨深げに話した。
ホーム上でのテープカットに臨んだ後、根津社長らは試乗車に乗り込んで同駅を出発。約3分で半蔵門線の発車式が行われた隣の押上駅に到着し、東武と営団の新型列車が1、2番線ホームに揃い踏みした。
延伸区間は、水天宮前(中央区)〜押上(墨田区)間の6q。清澄白河(江東区)〜住吉(江東区)〜錦糸町(墨田区)〜押上の4つの新駅が開業する。同時に東武伊勢崎線も曳舟から押上まで延び、両線の相互直通運転がスタート。
これにより、足立、墨田、江東区などの住民が、大手町や渋谷などに直行で行けるようになる。平日朝のラッシュ時には、押上〜清澄白河間を約4分30秒間隔で、清澄白河〜半蔵門間を3分間隔で運行。所要時間は、押上〜水天宮前までが約10分、押上〜大手町までが約15分で、押上〜渋谷までは約30分となる。
営団地下鉄半蔵門線の延伸区間の水天宮前〜押上間(6q)が平成15年3月19日開業、運行開始となった。
江東区、墨田区の両区内に4つの新駅『清澄白河(予想乗降客、26,000人)〜住吉(予想乗降客、16,000人)〜錦糸町(予想乗降客、32,000人)〜押上(予想乗降客、73,000人)』が誕生。半蔵門線が下町に「新たな風」を吹き込むことに地元の期待も膨らんでいる。
押上〜錦糸町はたったの2分で、押上〜清澄白河間は平日朝夕で12、3本、平日昼と土休日は8本。東武線との直通は平日朝が10分間隔、昼20分間隔、夕方15分間隔で、朝以外は土休日も同じペース。押上に帰る終電は(平日渋谷発23時50分)。
この開業に伴い、営団では10年ぶりとなる新形式の車両を1月から導入している。この『08系車両』は従来の半蔵門線の面影を残しつつ、全面に縦曲面を配した疾走感のあるデザイン。
1編成(10両)に車椅子スペースを2ヶ所設け、従来車比で6cmと床面を低くしてホームとの段差も少なくした。7人掛けシートは営団初採用の『スタンションポール』で4人対3人に分割されている。
その他、同線は、今回の開業に合せて信号保安設備を更新し、繊細なブレーキ動作で乗り心地を改善すると共に、信号の示す運転条件を12(現行4)段階に増やすことで、必要以上の減速をなくすなど、運転効率向上を図る。
既存の駅と同様に、新駅にも自動火災報知機や非常用電源、スプリンクラーなどの防災設備も完備している。
今回の延伸区間の工事に営団地下鉄が着手したのは1993年12月で、10年に及んだ大工事になってしまった。
今回の工事区間には、
●柔らかい粘性土が地下に厚く堆積している
●地下に既設の構造物が多い
という、主に2つの問題点があった。
半蔵門線の延伸区間は隅田川に近いし、地盤が柔らかいのは、大きな川がある地域の宿命ともいえる。地下に穴を掘り進める作業の影響が地上の民家などに及ばないよう、掘削するトンネルの両側の土留めに、最も堅固な鉄筋入りのコンクリート壁を使った。
また、壁の内側の掘削する側の土には、生石灰の杭を入れ、土の改良をした。生石灰には、水を吸って膨張するという性質があり、地中に入れば周りの土を硬くすることが出来るからだ。
一方、巨大なビルが多い箱崎地区では、ビルの下に地下鉄を通すため、基礎部分の杭を地下鉄の軌道部分を跨ぐ形のより大きな杭に付け替えた。
地下の障害物は、そればかりではなかった。NTTや東京電力のトンネル、既存の地下鉄、高速道路の基礎杭・・・・・・・・・・・・・・・・atc。都営新宿線と交差する江東区の住吉駅付近では、普通なら25mぐらいのトンネルの深さを34mまで下げ、新宿線の下を半蔵門線が通るようにした。
押上
開通した営団地下鉄半蔵門線の新しい始発着駅、押上駅周辺の押上地区はかって、京成押上線の始発着駅として発展した。ところが、1960年に都営浅草線が開通し、京成線との相互乗り入れが始まると、買物客が逆に浅草などに流れるようになり、商店街の売上は一気に落ち込んだ。
そんな苦い経験もあるだけに、『今度こそは街の魅力を打ち出して客を引きつけよう』と昨年5月、駅周辺の6つの商店街と24の町会が手を結んで『半蔵門線押上駅開業祝賀実行委員会』を結成。地元を再び活性化させるための方法を議論しているなかで、『歌舞伎のまち、鬼平の町、鬼平の街、江戸文化の漂う町』というキャッチフレーズが生まれた。
池波正太郎の『鬼平犯科帳』には、主人公・長谷川平蔵の剣友だった岸井左馬之助の寄宿先として、駅から3分の春慶寺が度々登場。同寺が、江戸時代の歌舞伎脚本作家、鶴屋南北の菩提寺であることも、『江戸』をテーマにした街おこしのヒントになった。
実行委員会では、先ずは半蔵門線の利用客に街を巡ってもらおうと、春慶寺や各商店の場所などを記した地図を一万枚作成。3月19日の開通に合わせて一斉に配布し、23日には地元の小学生らのパレードや、岸井左馬之助の名が刻まれた石碑の除幕式が同寺で行われ、式には、俳優の『江守徹』も出席する。『寺を核にして街を盛り上げていきたい』といい、同寺の門前にかって並んだ縁日を復活させることも計画している。
『歌舞伎の街、鬼平の街、江戸文化の漂う街(押上・業平・横川)をキャッチフレーズに、押上駅周辺の町会や商店街など30団体で作る『地下鉄半蔵門線押上駅開業祝賀実行委員会』(熊谷恵二実行委員長)が『押上地区始まって以来の大規模イベント』を企画。
メーンは、3月23日に押上げ1丁目町会会館前の区道で開催する『模擬店広場』(午前10時〜午後4時)。綿あめ、イカ焼き、焼ソバなどに加えて、東武沿線自治体の埼玉県宮代町と杉戸町、佐渡越後の物産展など、約30店が並ぶ。開催中は随時、墨田区太鼓連盟の演奏や押上小学校児童の『よさこいソーラン踊り』などが披露される。
近隣6商店街を巡るスタンプラリーを3月21日〜3月23日まで実施。
このほか、同委員会では、押上地区を紹介するマップを一万枚作成しイベント開場などで配布。また、4月10日まで同駅を中心に四つ目通りと浅草通りにちょうちん490個を設置して雰囲気を盛り上げている。
3月23日に、四つ目通で『記念パレード』を実施。午前10時に押上駅周辺をスタートして午後0時30分に錦糸町駅南口広場に到着。
●柳島小学校鼓笛隊
●ボーイスカウト鼓笛隊
●本所警察署交通少年団
●本所消防少年団
●東京消防庁音楽隊
●民謡流し踊り
●かっぽれ踊り
●花笠踊り
●神輿6基渡御
などが、本所防災館前を次々に出発していった。
錦糸町
JR錦糸町駅との乗換駅で、沿線では最も賑わいを見せる街だ。南口(墨田区江東橋)には、映画館と温泉の楽天地とリヴィン、丸井、テルミナ(JR駅ビル)などの大型店のほか、沢山の個性的な商店が並んでいるので、どんな店があるのか丹念に歩いて見れば新発見の種は尽きない。
北口(墨田区錦糸)は再開発ビル群。音楽ホールとしては全国的にも有数の機能を備えた『すみだトリフォニーホール』、海外にもその名が知られている東京マリオットホテル錦糸町東武などが建ち並び、『そごう』が撤退したあとの商業ビルでは、アルカキット錦糸町が健闘している。また、亀戸天神(江東区亀戸)には、半蔵門線の錦糸町駅から錦糸公園を越えていくのが一番近道だ。
墨田区のJR錦糸町駅の北東に広がる錦糸公園の一角で、地下へ続く階段がポッカリと口をあけている。『のりかえよっ、半蔵門線に』。真新しいクリーム色の壁に張られた営団のポスターが、新駅の利用を呼びかける。だが、1993年に営団が延伸区間の工事に着手した時、この出入口の建設計画は含まれていなかった。
『出入り口は3つ作るので、もう必要ない。営団はそういってます』不動産会社『東京建物』(本社・中央区)の錦糸町プロジェクト推進部。部下の報告に、『なんとしても認めさせるんだ』と上司が強い口調で命じた。1998年初めのことだ。
東京建物は前年、錦糸公園北側の『旧精工舎』跡地を取得。2006年の完成を目標に、高層マンションとオフィスビル、ショッピングセンターなどの複合施設を建設する計画に乗り出していた。地下鉄を降りた人の流れは出入り口の場所に大きく影響されるだけに、駅から200mほど離れた跡地近くへの出入口誘致は、東京建物社の至上命題だった。
地下鉄の新駅の出入口には、地元企業などの要望に応じて設置される『請願駅』があり、設置費用は要望した側が負担する。『請願駅として、そちらが費用を出してくれるなら』。再度の交渉で、営団側が出してきた条件がそれだった。
東京建物が投じた費用は数億円にのぼった。だが、東京建物の担当者はこういい切る。『長い目で見れば、数億円など微々たる金額といっていい』。東京の東部地区で最大の繁華街でありながら、近年、客足の落ち込みに悩む錦糸町の商業施設。地下鉄効果への期待の大きさを物語るかのように、新駅に設置された4つの出入り口の3つを『請願駅』が占める。
8つの映画館を擁する楽天地ビル真下に出来た出入口も、その1つ。ビルが1983年にオープンした時、地下駅への階段は『既に完成していた』と、ビルを所有する東京楽天地の老川豊常務は明かす。『錦糸町に地下鉄が来るという話は、30年以上も前からありましてね。いずれ必要になるだろと階段だけ作って、コンクリートをかぶせておいたんです』。
20年を経て『封印』は解かれた『どれだけの人が出入りしてくれるか』及川常務は期待を込めた。
出入り口こそ引かなかったものの、開通に合わせ、全館を改装したのは「丸井錦糸町店」だ。中でも13年ぶりに復活させた7階レストラン街を目玉と位置付け、開通日にオープンさせる。
『錦糸町には少ない、おしゃれな雰囲気のレストランを作ることで、若い家族層をターゲットにできると考えた』と丸井広報室。今まで550万人ほどだった年間の来客数を、今年は一気に100万人増やせると見込んでいる。
『いってみよう !!
錦糸町』をキャッチフレーズに、錦糸町駅周辺の町会や商店街など14団体でつくる『地下鉄半蔵門線錦糸町駅開業祝賀行事実行委員会』(山本敏一委員長)が共通ロゴマークを作成。東武線沿線の人たちに錦糸町に繰り返し来てもらうきっかけにと、3月21日〜23日まで盛りだくさんのイベントで町の魅力をアピールする。また、錦糸堀公園での『カッパ祭り』と錦糸公園での『桜まつり』を同時開催。
21日(金)
●フラメンコ(錦糸町駅北口広場、午後2時30分)、
●都認定の大道芸(錦糸町駅北口広場、正午、錦糸町駅南口
広場、午後5時)ヘブンアーティスト、ペッパーゼロら。
●子供太鼓、菊川太鼓(錦糸町駅南口広場、午後1時30分)
●素人演芸大会(錦糸堀公園、午後1時)
22日(土)
●加門亮ら徳間ジャパン所属歌手による歌謡ショー(錦糸町駅
南口広場、午後1時)
●錦糸中学校ブラスバンド部、ら・メール、リバーリップスの演奏 (錦糸町駅北口広場、午後1時)
●日乃出家小源丸、河洲光丸による錦糸町河内音頭ライブ北
口広場、午後3時、南口広場、午後4時30分)
●ポニーと遊ぼう(錦糸堀公園、午前10時、午後2時)
●江戸曲独楽(錦糸堀公園、午後1時)
23日(日)
●神輿2基錦糸町駅周辺を渡御(錦糸町駅南口広場、午後1時30分)
●ポニーと遊ぼう(錦糸堀公園、午前10時、午後2時)
錦糸町駅周辺では、大型店を中心に『錦糸町活性化委員会』(事務局=東京楽天地、13団
体)を結成。実行委員会と連携しつつ、各店舗外壁に統一デザインの懸垂幕を設置するなどし て雰囲気を盛り上げている。
住吉
都営新宿線との乗り換え駅。同駅を降りてすぐ東側に広がっているのが猿江恩賜公園(江東区毛利、住吉)で、園内には樹木が多く『ミニ森林浴』が楽しめるほか、桜の季節には花見のポイントでもある。ティアラこうとう(江東公会堂)のほか、野球場やテニスコートなどのスポーツ施設もある。
同公園の東端は横十間川で南へ進めば親水公園につながっている。
清澄白河
半蔵門線の新駅、清澄白河駅は都営大江戸線との乗り換え駅でもある。駅を降りるとすぐ西側にあるのが清澄庭園(江東区清澄)。紀伊国屋文左衛門の屋敷跡で、明治には岩崎弥太郎の別邸だったところ。園内には全国から集められた奇岩・名石が配され、池の周囲を巡れば、景色が少しずつ変化していくのがわはる。都会の喧噪(けんそう)からしばし離れるには絶好の場所で、バードウオッチングのポイントでもある。
清澄白河駅から東の方向10分ほど歩けば、木場公園(江東区木場、平野)にたどりつく。葛西通りをはさんで南北に広がる都内でも有数の広大な公園で、その北端にどっしりたたずんでいるのが、東京都美術館だ。少し距離があるように思えるが、途中、美術館通りの商店街を眺めながら歩けばそれほどでもない。
東京都美術館では、3月23日まで『ミスミコレクション展』と『おだやかな日々展』を開催中だ。
清澄白河駅左奥にある江東区立深川江戸資料館では『東京の民謡を歌い継ぐ会』が、半蔵門線の全駅にちなんだ民謡を披露。渋谷駅の『代々木八幡餅搗唄』から始め、永田町駅の『オッペケペー』、三越前駅の『お江戸日本橋』、清澄白河駅の『深川音頭』など、19曲を歌った。
日本橋三越本店
期待感を高めているのは延伸区間だけではない。中央区の日本橋三越本店では、『創業以来3回目の商圏拡大の好機』と捕らえ、延伸区間と、その先の東武伊勢崎線の沿線世帯を社員が戸別訪問する『大ローラ作戦』を始めた。
ちなみに、過去2回の『好機』は、1932年の銀座線三越前駅開業と、1989年の半蔵門線三越前駅開業。いずれも地下鉄がらみだった。『モノを売るだけの店なら郊外にもある。文化や教養の発信点という、都心の百貨店ならではの特長をアピールして行きたい』と、日本橋三越本店は自信をみせる。
一人でも多くの乗降客を引き寄せようと、しのぎを削る錦糸町の商業施設。しかし、東京楽天地の老川常務は自戒を込めていう。『錦糸町を、日本橋や渋谷への通過点にしてしまっては意味がない。今後は互いに協力し合って、地域全体の魅力を高める努力をしないと、(街対街)の戦いに生き残れなくなる』。
沿線の期待を一身に背負って、3月19日、延伸開通する営団地下鉄半蔵門線。1本の地下鉄が地域にもたらす恩恵は計り知れないが、営団は2004年4月、民営会社『東京地下鉄』に生まれ変わる。民営化によって何が変わるのか。首都の地下鉄の今後を展望する。